相続で引き継いだ山林・原野はどうする?

専門家が知っておくべき“売れない不動産”の処分法
相続で突然やってくる「不要な土地」の悩み
「お客様が相続で山林や原野を引き継いだが、どうしたらいいかわからない」
これは弁護士や司法書士、税理士、行政書士などの専門家に、近年急増している相談のひとつです。
都市部の不動産であれば市場で売却できますが、地方の山林や原野、接道のない土地などは「売れない不動産」とされ、固定資産税だけが毎年かかり続けます。こうした物件は俗に「負動産」と呼ばれ、持っているだけでリスクとなるケースが多いのです。
本記事では、専門家が依頼者に説明できるよう「売れない不動産を持つリスク」「国庫帰属制度の活用」「民間の引取り制度」について詳しく解説します。
売れない不動産を持ち続けるリスク
1. 固定資産税・管理費用の負担
利用できない土地であっても、毎年固定資産税は課税されます。
さらに共有持分であれば管理費用や測量費用が将来的に発生する可能性もあり、「収益を生まないのにコストだけかかる」典型的な負担資産です。
2. 管理義務と近隣トラブル
山林や原野を放置すると、草木の繁茂や倒木、不法投棄の温床になることもあります。所有者は民法上「管理責任」を負うため、近隣から損害賠償を求められるリスクがあります。
3. 災害リスク
崖地や急傾斜地の土地は、土砂崩れや地滑りによる災害リスクを抱えています。災害が発生した場合、所有者に安全対策を怠った過失が認められれば、法的責任を問われることもあります。
4. 相続リスク
次世代に引き継がせたくないという声も多いです。しかし相続放棄には家庭裁判所での手続きや費用がかかり、現実的には放棄できないケースもあります。結果的に「使えない土地を代々引き継ぐ」という負の連鎖が続きます。
「売れない」不動産の典型例
- 山林・原野(利用価値が低い)
- 接道のない土地(建物を建てられない)
- 農地(農地法により転用困難)
- 崖地や地盤不良地
- 共有持分や境界未確定地
これらの物件は一般的な不動産会社では仲介すら断られることが多く、「どう処分すればいいのか」という相談が専門家の元へ届くのです。
国庫帰属制度とは?
制度概要
令和5年4月にスタートした「相続土地国庫帰属制度」。不要な土地を国に引き取ってもらえる制度です。相続した土地を放棄したい人にとって大きな注目を集めました。
利用要件
ただし、この制度は要件が非常に厳格です。
- 建物・樹木がないこと
- 境界が確定していること
- 災害リスク(土砂崩れ・崖崩れ等)がないこと
- 他人による使用・通行がないこと
👉 一般的な山林や原野は「樹木伐採費用」「境界確定測量費用」などが必要になり、申請自体が難しいケースが多いのが現実です。
負担金
国庫帰属制度を利用する場合、土地面積に応じた負担金が必要です。
目安は20万円程度ですが、大規模な土地や造成が必要な場合は数十万〜数百万円になることもあります。
実際の活用状況
開始から1年経過しましたが、実際の利用件数はまだ限定的です。条件の厳しさや費用負担の大きさがネックとなり、申請しても却下される事例が少なくありません。
民間の引取り制度との比較
民間引取りの特徴
- 条件が柔軟:建物が残っていても対応可能な場合あり
- 費用が明確:1筆15万円+固定資産税20年分+管理費10年分が目安
- スピード:最短2週間で処分が可能
再活用事例
民間で引き取られた土地は、キャンプ場や資材置き場、倉庫用地などとして再活用されるケースもあります。地域によっては太陽光発電や自然体験施設に転用される事例もあります。
比較表
項目 | 国庫帰属制度 | 民間引取り制度 |
---|---|---|
条件 | 非常に厳しい | 比較的柔軟 |
費用 | 面積に応じ数十万円〜 | 明確:1筆15万円+固定資産税等 |
スピード | 数か月〜1年以上 | 最短2週間 |
活用後 | 国有地化(再利用は国が判断) | 再活用される可能性あり |
専門家が依頼者に「両方のメリット・デメリット」を説明できることが大切です。
仲介売却という選択肢
すべての土地が「売れない」とは限りません。市街地に近い山林や農地であれば、仲介による売却が成立するケースもあります。農地の場合は「非農地証明」を取得して宅地化を検討する道もあります。
ただし、地元の不動産会社では取り扱いを嫌がられることも多いため、売却経験のある業者と連携することが重要です。
専門家が果たす役割
士業の先生方が「相続登記」「税務申告」だけにとどまらず、「処分方法」まで提案できれば、依頼者からの信頼は格段に高まります。
依頼者にとって一番の悩みは「子供に迷惑をかけたくない」「将来にリスクを残したくない」という点です。
そのためには、国庫帰属制度だけでなく、民間引取り制度や仲介売却などの選択肢を提示できることが、依頼者に寄り添う専門家の姿勢につながります。
まとめ
- 相続で引き継ぐ山林・原野などは「売れない不動産」となり、固定資産税や管理リスクを抱える。
- 国庫帰属制度は一つの手段だが、条件が厳しく利用は限定的。
- 民間引取り制度は条件が柔軟でスピーディーに処分できる。
- 一部の土地は仲介売却の可能性も残されている。
- 専門家が「出口戦略」を理解し、依頼者に選択肢を提示することが信頼構築につながる。
私たちマイプロ(よりそい不動産)は、士業の先生方と連携し、お客様の大切な不動産について最適な解決策をご提案いたします。